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まさかのBL風味です。
あからさまじゃないけど、でもBLだろう。
なので以後要注意です。
病み上がりな某氏に。

あ、兄×アーデさんです。









住処





 薄暗い視界の殆どを占める、より濃い影が絶えず動いている。影は安寧であり畏怖であり郷愁だった。その捕え所の無い広さが自分を生んだ。
 影は酷く彼を愛おしんだ。護りながら育てながら、また折に触れては突き放す。その最たる裏切りは忘れもしないが、痛みは自分の悔恨と同化し、薄れずとも月日は流れた。だのに自分に腫れ物扱いを見せる影に、彼は哀れみを覚える。だから緩む口元を叱咤し、反論した。
「あなたは不幸だ。あなたしか知らない僕になんて捕まって。優しいから放って置けないでいたら、このザマだ」
 影は笑う。可哀想なのはお前だ、と苦く頬に描きながら。
 始めから何から何まで、今に至るまで全てを俺の好みで造り上げちまって。いや、俺が書き換えたっつった方が正しいのかな、と。
 声に混じる皮肉は自分と影とどちらに向けられたものなのか分からなかったが、自分に向けられたものだとするならば、そこに憤る隙間は彼には無かった。
「それは僕が僕になる為に、人になる為に必要だった事だ。それ以前は僕は僕ですら、人ですらなかった」
 動きを止めぬまま、背景に同化しそうな影は首を横に傾げた。
 でも、自由だったろ? 傾げたままに問われた。
「人ですらなく何も分からない時点で、自由を感じるも何も無い」
 影が手を伸ばし、首元を捕えられた。熱くもなく冷たくもない温い温度が肌の一部を覆う。圧にもならない力に、は、と息が抜けた。
 今度は反対側に首を捻り、影はぼやく。どこか宙を彷徨う様に。
 ……イタチごっこ、っつーんかな、こういうのも。鶏と卵?
 言いたい事な何となく理解出来たが、だかその表現に対する回答を手にしていた彼はまず答えずにはいられない。それが影の伝いたい中身と隔たっていようとも。
「どちらが先かという話なら、卵だ。鶏と卵では細胞数が絶対的に違う。細胞数から分裂段階を鑑みても、その段階までの分裂が容易だという点からも卵が先になる」
 はた、と影の動きが止まる。それに従い彼の身体の揺れも治まった。ふ、と笑いを滲ませ、愉しげな声が続く。
 ……あー、ハイハイ、そうなの。そんじゃ、ま、お前が卵だったんかな。それをそっから俺が好きに作った、と。
「……そういう話ではなかった気がするのだが」
 話を大きく離反させたのは己だと自覚はあるものの、用いた表現のせいでここまで来てしまったのだと、影を睨め付けたい心持ちもある。見上げる視線に圧力を加えると、息の根を止めるつもりなど毛頭無かった影の端は喉元から撫で上がり、左の耳を嬲った。彼の肌の上を震えが走る。分かり易い反応を見てとった影はく、と笑い、力強く動き始める。今度は彼の肺の奥がぐう、と衝撃と快感に鳴った。
 いやいや、いーのいーの。強ち外れてないから、それ。なんせ俺はお前を擦り込み同然で好きにしたから、お前もせめて、今後の俺、好きにしていーよ。そう、柔らかく紡ぐ。
(そう言われるのなら)
 視界は激しく揺れを刻む。動きに乱れた髪先が、まただらしなく緩み始めた唇に貼り付いて薄らと不快だった。
 闇の中に息衝く影は、その奥に顔と表情を潜め、目を凝らすと隻眼がそうと知れる。その周囲を靡く様に浮遊する、褐色の巻き毛。
(そんな風に、言うのなら、僕は)
(あなたの目に住みたい)
 欠けてしまった眼の、その奥の、一対の、しかし対局の、陰陽の、目に。
 失われた緑色に深く深く、融けて。
 この振動と卑猥な熱が叶えてくれるなら。その一言はまるで影に喰われ、終ぞ口には出来なかった。

 あなたの目に住みたい。
 目になりたい、補いたい、ではなく、自分は自分のままあなたの目に住んで仕舞いたい。微睡の海で漂うまま、彼は募らせる。
(こんな欲求、つまりはいつか肉体を失う日を分かっていたのか)
(誰も、彼も)
(僕、も?)
(――僕が)



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雰囲気勝負。大敗。
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